2020年3月5日(木)
八重垣神社


「金持ち神社」を出て、車に乗ったら急に腹が減ったので、食事ができるところをぶらぶらと走りながら探していたら、蕎麦屋が見つかった。そういえば、出雲は蕎麦が名産だったと思い出して入ってみた。

 年配の夫婦みたいのが一組だけ食事をしている。「どこからいらっしゃいましたか」と向こうから話しかけてきた。

恰幅の良い品のある爺さんだったので、私たちも愛想良く接した。
たぶん、どこかの会社の社長さんだろうなぁと思いつつ、連れのご婦人は少し若すぎるので、きっと奥様ではないだろうなぁなどと、くだらないことに思いを巡らせながら出雲蕎麦を食べていたら、「ここまで来たら八重垣神社に行かないと不十分ですよ」と教えてくれた。「その神社はどこですか?」と聞くと、「すぐ近くですから、車のナビで分かりますよ」というので名刺交換した。

これが、その後の関係に影響して来るとは、まさかその時は思わなかった。そういうことならついでと言っては失礼だが、「行ってみるか」ということになり、八重垣神社を探して行った。すぐに到着した。わかりやすい所だ。

 本殿を参拝した。この神社でのお祈りの様式も書けないほど複雑だった。
有名な「鏡の池」というのがあるというので行ってみた。幅4メートル、奥行き5メートルぐらいの小さくて浅い池だった。どこからともなく清水がコンコンと切れ間なく湧き出ている。
この池に占い用紙を浮かべ、硬貨をそっと乗せる。早く沈めば(15分以内)縁が早く、遅く沈めば(30分以上)縁が遅いという。横の売店で専用紙を2枚買い、折りたたんであるのを連れが開き、20センチ×40センチの大きさの紙を静かに水面に置く。

 動きが落ち着いたら真ん中に5円玉を乗せようとしたところ、池の横の看板に「100円か10円を乗せろ」と書いてあった。「ここの神様は金銭感覚がしっかりしているから、金持神社の親族かなぁ」などと下衆の勘ぐりで、つまらないことをぶつぶつ言いながら、隣の人がやるのを見ていた。
 紙に水がしみてくると、あぶり出しのような感じで、紙に何か書いてあるのが、にじみ出てくる。

最後に「半吉」と出てきたので、連れは「これはどういう意味かねぇ」と苦しんでいる。半分だから「中吉」の三分の一より幅が広いという意味で、「中吉よりはましなのだろう」と勝手に説明したが、定かではない。

『半吉』というのは初めて見る御札だ。よそで見たことはない。さすが出雲だ。知らないものがあちこちにある。第一、どこの店のどの商品も、岩国よりかなり安い。余計なことだが、儲かるのだろうかと心配になってくる。

私の番になったので、沈みにくい状態を続けるにはどうすればよいのかを考えた。まず紙が絶対に沈まないように対策を立てないといけない。沈ませないためには、舟のような形にするのが最も効果的と思い、四方を箱型に曲げた。

 しかし、これではいまいち不安だ。そこで折り曲げた紙のふちをさらに、くるくると二重、三重に浮袋になるようにしつこく折り曲げた。私は昔からよく「石橋を叩いても渡らない男」と言われていた。この時、それを思い出して一人で苦笑いした。

 連れは紙を指さして口を尖らせて文句を言っていたが、「これなら絶対」と自信をもって池に浮かべたところ、なんとしたことであろうか、意に反して神様の思し召しかわからないが、あれほどしつこく、ぐるぐると折り曲げて固めたはずの紙の縁が、すらすらーっと解け、あっという間に平らになってしまった。そしてみるみるうちに沈没してしまった。30秒もかかっていなかったと思う。

 1時間以上、少なくとも私たちがここに居るあいだは絶対に沈まないと思っていたのに…
このとき私は確信した。およそ、人間の考えることなど、神様から見れば笑うほどの価値もないほど程度が低い。こんなことに我々は日々あくせくしているのだろうなぁ。

連れは口を大きく開けて笑った。さもあらん。意に反してすぐに沈んだのだから。この縁はすぐにまとまると神様はおっしゃっているのだろうから。しかし家内がなくなって未だ7回忌も済んでいないのだから、まとまってくれたら困るのだが、と思いながらあきらめムードで隣の人を見ていた。

 隣の若いカップルの女性の方の紙が、いつまで経っても沈まない。気の毒に思ったが、池に波風を立てるわけにもいかない。泣きそうな顔をしながら、彼氏の手を握りしめている彼女を見ているのがつらいので、2人で池を後にした。

 連れは無言だった。何をしゃべって良いのか考えていたのだろう。
ナビに電話番号を打ち込んで、フルスピードで出雲を後にした。途中、高速の上で大山と思しき山を右に見かけた。富士山に似たとても美しい山だ。7合目から上が雲で覆われている。

道路わきのゼブラゾーンに入って写真を撮った。出雲市の道路課の人はすごい。高速のあんなところにゼブラゾーンを作っている。頭の良さに感服した。どこかの県の道路課とはかなり違う。大山のあまりの美しさ、今までの出来事から察して、今年は占いの本に書いてある通り、私の人生で最高の年になりそうだ。

ルンルン気分で岩国へと急いだ。天気予報で山陰は雪が降るとあったせいか、高速もすいており、予定より1時間早く岩国に到着した。充実した1日ではあった…