2021年6月10日(木)
変な世の中になりました

『花の色はうつりにけりな いたづらに わが身世にふる 眺めせしまに』 
(小野小町)

 父上様、あなたが座って居るあたりの野原は綺麗な可憐な花が年じゅう、一面に咲き乱れ、緑の風が心地よく吹いていることでしょう。

 とてもさわやかで楽しく、時折やってくる若くて美しい天女さんたちもよく笑い、毎日それは大変楽しい日々をお過ごしのことと思いますが、こちらは、それこそホントに大変で、わずか一年と半年の間に、話を聞いてもにわかには信じ難いことが毎日連続して起きています。

 2年前までは帽子を深々とかぶり、真っ黒い大きめのサングラスをして、大きめのマスクをして道路を歩こうものなら、すぐに警察が来て、職務質問されるところですが、今は状況が一変して、逆にマスクをしないで歩いていたら周囲から白い目でにらまれ、
(こんな非国民は早く死ねばいいのに)と言わんばかりの態度をされるでしょう。

 悲しい時代になりました。
長く生きて来ましたが、こんなことが起こるとは想定外です。世の中は常に移り変わり、「悪いことも良いこともいつまでも続かないよ」とあなた教わっていたので、少々のことでは驚かないくらい、物事を多少は知っているつもりでしたが、今は国じゅうが戦時中並みの緊急事態の毎日です。

 あなたの近くに行った方がよほど安全で、安寧が得られると思いますが、未だ私にはやり残したことが多くあり、そちらに行くのはもうちょっと待ってください。

 私には私の与えられた使命みたいなものがあり、それを済ませないといけません。こんなバカな息子でも必要としてくれている人が多くいて、その人たちに関する仕事が残っています。

 これは私に課せられた使命ですから、私の息子に押し付けるわけにもいきません。私自身でやらないといけません。やり残してそっちに行ってしまったら、閻魔大王が立腹して倍返しされるかもしれないから、放っておくわけには行きません。

 こんな精神教育を私にしたのは、あなた自身ですから、わかっていただけると思います。

 しかし、それにしても生きにくい時代になりました。かの徳川家康公は『人生とは重き荷物を背負い、険しい山道を登るが如し』とかおっしゃっていましたが、その通りだと思います。

 日本国だけでなく、世界じゅうが無茶苦茶なのです。戦争でもないのに、戦時中みたいになってしまい、人々の心は粉々にこわれ、おかしな事件や事故が多発しています。多くの会社やお店がどんどん潰れていき、今や岩国駅前にかつての面影はありません。

 夜の8時頃に通りを歩いても、酔客の姿はほとんど見ることはありません。閉店していてもシャッターの下から明かりがもれていたら大変です。

 変な世の中になりました。
夜の街は景色がすっかり変わってしまいました。ぼーっとしていたわけではないのだけれど気付いた時には、すでに手遅れと言われるほど変わりました。

 くどくどと世迷言を並べて、たわけておる暇など私にはなく、仕事をやらないと、おかーちゃん(妻)が怒ります。

 また、お手紙書きます。天国にツツガ虫は居ないでしょうが、つつが(コロナ)なきよう、祈っております。