なんでも屋
永いこと板金塗装工場をやっていると御馴染みのお客さんというのができる。板金塗装工場というのは事故車を修理する所だから、普通、人はめったに事故などしないから、馴染み客などできる訳ないと思われるがどうした訳かできる。そしてその馴染み客は、とくに女性は、ましてオバサン達は実に色んな事を言ってくる。私の事を板金塗装屋とわかっている筈なのだが何でも言ってくる。きっと板金塗装屋と言うのはよろず屋だと勘違いをしているのであろうそうに違いない会議中でも食事中でも真夜中でも私の都合のことは全然構わずにがんがん言ってくる。
○エンジンがかからないの、、、、、すぐ来てなおしてぇ――――――○鍵を閉じ込めたのよ、、、、、ドアを開けてくれません?―――――― ○車検が切れたのよ、、、、できるんでしょ?、、、、安くやってちょうだい。ついでにタイヤも替えといてね。車の全体をサービスで綺麗に磨いといてね。○パンクしちゃったのよ、、、、、私できないからすぐにやりかえてちょうだい。○事故っちゃったんだけど相手がケーサツに行こう、ケーサツって言ってんだ
けど でも私この前スピード違反で捕まったばかりだから行きたくないのよねぇ。どうしょう?○私の車、今頃なんだか調子が悪いんだけどどっか安くて良い車、ない?○車がね、側溝に落ちたのよ、、、、、、すぐなんとかしよ などなど次々におっしゃることをなんでも「はいはい」と聞いていたらとうとう私は新車販売、板金屋、整備屋、部品屋、中古車屋、車検屋、保険屋、示談屋、集金屋、鍵屋、タイヤ屋、ガラス屋、磨き屋、表面コート屋、バッテリー屋、レッカー屋、廃車屋、足回り調整士などとなんでもできるようになってしまった。あ――あ、何でもかんでもできる人って大抵、何にもできないんじゃないかと考えるのが普通だ。だからこんなにたくさん色んな事したくないよ、、、、、、、なんて言おうものならオバサンはすぐかみついてくるから怖いのでやむなく文句も言わずに全部やっている。こんな仕事のどこに男のロマンがあるのだろうと思うこともあるのだけど、人間の幸せなんて案外こんな所にあるのかもしれないなどとおもってやっているのだ。ちょっと二十年くらい前までの話だが、私の店の商品メニューといったら板金塗装のみであった。その頃街の整備工場は軽い小さい板金塗装は自分でしているところが一部にあったが今は大多数の整備工場が上手下手は別として板金塗装を手掛けている。そしてそれを見て私は専門じゃないんだから見よう見まねなんかで整備工場にちゃんした板金塗装ができるわけがないだろう。だいいちOILと塗装は全然、敵同士じゃないか。どうにもなるものか!と、なかばバカにしていた様なところがあった。それがいまはどうだ。たしかに表の入り口の看板には板金塗装専門工場とかいてあるのだがうちのお客さんはその字を読まないのが多いらしい。車に関係した事は何でもかんでも言ってくる。だからなのか今、私の一日は板金工場のオヤジよりその他の仕事の方が多いのである。特に損害保険の代理店としての仕事は非常に時間がかかる。整備工場が板金塗装屋の仕事に手を出すから仕方なく板金屋が整備工場などの本来は異業種の仕事に手を出さないといけなくなる。こんな事を言ってみたってこれっていまさらながらの言い訳になるのかなぁ。お客さんの注文で事故の相手から修理代をふんだくってきたり、又,とに角過失をとられまいと必死にがんばるオバサンにあれこれと入れ知恵したりとほんとになんでも屋は大変だ。私に板金塗装をさせてよお願いだから。私は板金塗いう仕事が好きだからこの仕事を始めたのですよほんとうは。別にオールラウンドプレーヤーになるつもりじゃなかったんだ最初は(今でもそうだが)、、、、、、、青雲の初志はいつのまにかどっかに追いやられてしまっているので今にきっと仲人なんかもやらされるかもしれない。同業者の中にはもうそれが副業になってしまった者もいる。おーいやだ、商売をしているとこう思うことすら我ままになってしまうのかな?明日は雨が降るらしい。お客さんはきっと少ないだろうから工場の隅で朝から晩まで板金をするつもりだ。誰も邪魔するなよ。それにしてもうちの電話、朝から晩まで一日中よく鳴る。番号がおぼえやすいのだろうか、何でだろう。あ!!又、電話が鳴っている。ひえ〜〜〜きっとまた恐怖のオバタリアンだ、、、、、、