コラム

86 出ない保険

三島次郎君は若くて真面目で、信頼できる男だ。挨拶もよくするから人受けもよく近所では評判が良い。しかし愛車の真っ赤なスポーツカーに乗ったら性格が少し変わるのである。

このような人は結構たくさんいるが次郎君の場合少し重症であっただけのことだった。日曜日の夕方隣町のおいしいラーメン屋まで行く途中、前の車がなんだか不安定な運転をしている、

左右にフラフラしたり、急に早くなったりしている。前に車はいないのにトロトロと走ったりする。ガラス越しに見ると車内には女性がいてそれと寄り添っていて、なにかイチャイチャしているように見える。

次郎君は頭に来た。ルームミラーで後ろを見てみるとズラーと車が連なっている。「あの野郎め」彼は直線コースに来た所で追い越そうと思った。センターラインは黄色の実線だ。ここは良く事故があるので追い禁になっている。

前の車は女にうつつを抜かしてフラフラ運転をしている。非常に遅いスピードでのろのろと走っている。次郎君は右に出て加速し前の車が横に並んだときだった。横目でチラッと相手車を見るとアクセルをめいっぱい踏み込んだ。

しかし女にうつつを抜かしていた前の車が急に何を思ったか、突然猛スピードで走り出した。二台の車はぴったりと並んですごいスピードで直線コースを駆け抜けていった。カーブがそろそろ見え始めた頃次郎君は諦めてブレーキを踏んだ。

するとこともあろうに相手も、急減速してきたのだ。次郎君は慌てた。元の車線に帰れないのだ。仕方ないので次郎君はカーブが目の前に迫っていることもあり、再度急加速した。しかし相手はふざけているらしい。次郎君とスピードを同一にしてぴったりと横について離れない。

とうとうカーブにさしかかった。対向車が見える。大型トラックだ。こいつと正面衝突をしたら大変だ。死ぬかも知れないと瞬間思った。道路は三台が並ぶほど広くない。次郎君と相手車は二台並んで猛スピードでカーブに入っていった。

前方のトラックは「ブオー、ブオー」と激しくクラクションを鳴らしながら迫ってくる。次郎君は「ばか野郎め」と言ったかと思うと、隣を走っていた車にぶつけていった。トラックとは瞬間的にすれ違ったが三台はすぐに止まった。

そして二人とも相手の顔を見ながら同時に言葉を発した。「ばかやろう、なんてことするんだ!」次郎君は自分の車を見て見ると左側が前から後ろまでグシャグシャに凹んでいる。相手の車も半分から前がかなり凹んでいる。「オマエが変な運転をするからだ」「そっちこそ」と言い返してきた。

そこへダンプトラックの運転手が来て大声で「おい!若いの、ここは追い越し禁止だろうが!!死にてえのか、、コラ!!エー?」とどなって次郎君の車を一回りしてみて「まー自業自得だな、死ななかっただけでも儲け物さ、往生しろや」と言って立ち去った。

次郎君はそれを聞いてからこの事故は、こいつが道をふさいだり、不適切な運転をしたから起きたのだ。だから原因を作ったのはこいつだから、こいつが全部悪いのだ。

二人は現場で当分、罵りあっていたが相手の彼女が「ここで喧嘩していても始まらないから止めましょう」と言うものだから仕方がないのでお互いの住所氏名を書いた紙を交換してその場を離れた。

次郎君は相手が全部悪いと思っているが相手はあそこはもともと、追い越し禁止なのに追い越してそして元に戻れないからと言ってわざとぶつけてきたから次郎君が全部悪いと思っている。次郎君は一人になって考えた。

あいつが全部悪いから自分の車の修理代はあいつの保険で全部払ってもらわないといけない。しかし全部払ってもらう為にはあいつの修理代を全部保険で払ってやらないと払ってくれないだろうなー。と思ったりした。

月曜日になって、いつも集金に来る保険代理店のおじいちゃんに来てもらった。そして経緯を全部おじいちゃんに言った。するとおじいちゃんの言うことには次郎君の保険では相手の車の修理代は出ないらしいのだ。

よく聞いてみると車の保険では故意に事故を起こしたのでは保険は下りない事になっているとのことだ。次郎君は思った「まーいいや俺の保険から修理台がでないのはあいつの自業自得だ、馬鹿め、、、いや待てよ、あいつの修理代を払ってやらないと言う事は俺の車の修理代はどうなるのだ?。」

おじいちゃんに聞いてみると「わざとぶつけたのが本当なら相手に払う修理代も出ませんし相手からも弁償してもらえません。全額自分で払わないといけません。三島さん、あなたの保険は自分の車に出る車両保険が有るのですがこれも出ません。」次郎君は驚いた。

おじいちゃんは相手と自分の修理代を全部自分で払えと言っているのだ。「そんな馬鹿な話があるか、何の為に保険に入っているのだ。こんな時のためじゃないか。幸い相手に怪我がなかったから良かったものの保険屋は何を考えているのだ」とおじいちゃんに食ってかかった。

「三島さんわざとぶつけたのではなく、トラックをよける為に誤ってぶつかったのなら保険はでますが、、、、、、」というので次郎君は「あれはトラックをよけ損ねてぶつかったのだ」と言い換えた。

「そういう事なら保険は出ます。恐れ入りますが警察に二人でいって事故の届をしてきてください。」次郎君はあいつに電話するのは嫌だなーと思ったが仕方がない。二人で警察に行った。警官は怒って「何故追い禁で追い越すのか?あそこは大事故が多いのだ。

あんなとこで追い越すあんたが全部悪い」と大声で怒られて意気消沈して帰ってきた。愛車は事故でボコボコだし、警官には怒られるし最悪の日だったなーと思った。一つ救いは相手が進路妨害したのは最初の一回だけで後のは偶然スピードが合っただけだと言うことだった。

次郎君は車に乗ると豹変する性格が今回の事故につながったのだと気がついたとき自分が情けなくなった。「まぁいい、お金がいらないのだから良かったことにしよう。今日修理に出そう。」いつも行く修理工場のオヤジの顔が脳裏に浮かんた゛その顔はほほえんでいた、、、、、、、、、、、、

 

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