待ちの商売

板金塗装ショップという店は非常に地味な存在だ。一般的には看板は有ったりなかったりで、昼間というのに営業しているのかいないのか不明で、又何の仕事をしているのか隣の住人でさえ良くしらない、、、、ということが多かった。

うさんくさい話だ。そして大部分が家内工業でありトーチャン、カーチャンでやっている。　少しましなところで有限会社というところだ。

板金塗装専業で株式会社と言うのは非常に少ない。今までは蜘蛛が巣を張ってじっとしている様にブラブラと暇そうにしていたらトヨタなどのディーラーが仕事を取ってきてくれていたから彼らに元請けとしての意識が確立されていた。

しかし昨今の不景気は強烈でディーラーでさえその余裕が全然ない。凹んだままの車はたくさんあるがお金がないわけじゃないし時間がないわけでもないのに修理をしようとしない。

長引く不景気で、救いようのない沈滞ムードになり少しぐらい凹んでも修理しようと言う気が起きないのだ。昔は赤い車に白いドアをつけて走っているのは外人ぐらいのものだったが今は反対で、外人はちゃんとしているがみっともない事をしているのは一部の日本人車だ。

凹んだ車を見つけて報告すると「わかっているよ、この次の車検で一緒に直そうと思っていたんだ」とか言ってはいるが車検ではやっぱり修理しない事が多い。同時にやったら金額がかさむからだ。

結局凹んだままでいつまでも（誰かがぶつけてくれるまで）待っているのが現状だ。ここでこのまま待ちの状態を続けていたら仕事は段々減ってきてしまいには全部なくなってしまうのではないだろうか、、、などと危惧されるようになった。

かといって今までは何十年も待つだけの状態を続けてきたのだが、この不景気の打開策としていまさら何をしよう？と考えればひらめいたのが車の保険を売ったら事故した時はきっとお客は来てくれるに違いないと思った。

そしてその事を、よく来る帝国損害保険会社に言ったらすぐにやってきて代理店契約を結んでくれた。そこで古くからおなじみのお客さんに声をかけたら「どうせ事故ったらお宅で直してもらうのだし保険料が同じならいいよぉ」と言って皆さん快諾してくれた。

現在ではそれを家内がやっていて（有限会社なんだけど殆んどトーチャン、カーチャン企業ですから）保険会社から貰う代理店手数料が月に数十万円を超えるころになると女は欲なもので見込み客をリストアップして次々にアプローチしはじめた。

いや恐ろしいものである。この前までヒロミ自動車の経理事務など一日のうち１０分もあれば十分こなしていたのに今では帝国保険会社の仕事で一日中机に座っている家内である。そして益々やる気を出して励んでいる。

工場に来る人には皆声をかけているからよほど都合の悪い人はともかく保険なんかどこで入っても同じだと思っている人はたくさんいるので一声かけると気軽に入ってくれる。

今頃では毎月十人位の新規のお客さんを取ってくるようになってしまった。しかしやはり板金塗装の仕事は少ない。代理店をしている帝国損害保険会社からの仕事は月に一台か二台位のものだ。

最初の見込みと全然ちがう。事故に遭って入庫したお客にばかり保険を勧めているのに皆、二回目の事故は遠慮して差し控えているのだろうか。それとも免疫ができて上手になったのだろうか。

帝国保険会社の担当が笑いながら言う。「ヒロミさんとこは客層がいいからなかなか事故されないですねぇ」とか言っている。保険をかけておけば事故ったときにすぐにもってきてくれるからと思って必死で保険をすすめたのに、、、、

かくして保険はあまり当てにならなくなった。次は何をやろう。色々考えていたら今頃は保険に入っているお客が「ヒロミさんとこは車検はやってないの？安くやってよ」と言うお客が増えた。

そうだ車検をやったらついでに凹みを直すお客が増えるかもしれない。そうだそうだ車検をやろう。車検をやるのに必要な工具は大体有るし、ないものは買えばいいだろうと思って陸運事務所に聞いてみたら我社に不足しているものは排気ガス測定装置と油水分離装置だけだと言う。

早速これを購入して車検を始める事になった。さぁこれからどう言う展開があるかなぁ、、、、、楽しみだなぁ。お客さんがガンガン来すぎて処理できなくなったらどうしよう。断るのや長く待たせるのは性に合ってないしなぁ。

毎日夜中まで残業するのは嫌だなぁ。まぁそれでも以前のように仕事がすくないよりはましだからがんばろう。しかしそれにしても車検一台やった工賃が軽四輪のフェンダーの塗装代と同じ位とは思わなかったなぁ。

車検は忙しいばかりであまり儲からないものなのだなぁ。だから今頃非常に忙しくなった。でも売上は相変わらず上がっていない。最近になってなぜ儲からないのかやっとわかってきた。

ヒロミ自動車は他の工場と比べて工賃が異常に安いのであった。だからいくらがんばっても、利益が出なかったのだ。お客さんは安いから喜んでたくさん来てくれるのに忙しいばかりで全然儲からない。

以前は利益が出ないのは暇だからとばかり思っていたらそうではなかった。車検をやってみてやっと分かった。どうしたものだろう。とりあえず消費税だけでも今後は貰う事にしよう。お客が嫌がることはしたくないが、

かといって工賃をすこしだけでも値上げしてもらわないと会社が潰れちゃってもこまるしなぁ、、、しかし工賃の値上げはやっぱりいやだなぁ。でもいつまでも赤字経営というのもどうかと思うしィ。

とりあえず一般のお客さんの自腹の時に安くする分、金持ちの保険会社から貰う時はきちんと定価を貰う事にしよう。世のため、人のためだから、保険会社さん悪く思わんといてね。

次へ続く


	待ちの商売板金塗装ショップという店は非常に地味な存在だ。一般的には看板は有ったりなかったりで、昼間というのに営業しているのかいないのか不明で、又何の仕事をしているのか隣の住人でさえ良くしらない、、、、ということが多かった。うさんくさい話だ。そして大部分が家内工業でありトーチャン、カーチャンでやっている。　少しましなところで有限会社というところだ。板金塗装専業で株式会社と言うのは非常に少ない。今までは蜘蛛が巣を張ってじっとしている様にブラブラと暇そうにしていたらトヨタなどのディーラーが仕事を取ってきてくれていたから彼らに元請けとしての意識が確立されていた。しかし昨今の不景気は強烈でディーラーでさえその余裕が全然ない。凹んだままの車はたくさんあるがお金がないわけじゃないし時間がないわけでもないのに修理をしようとしない。長引く不景気で、救いようのない沈滞ムードになり少しぐらい凹んでも修理しようと言う気が起きないのだ。昔は赤い車に白いドアをつけて走っているのは外人ぐらいのものだったが今は反対で、外人はちゃんとしているがみっともない事をしているのは一部の日本人車だ。凹んだ車を見つけて報告すると「わかっているよ、この次の車検で一緒に直そうと思っていたんだ」とか言ってはいるが車検ではやっぱり修理しない事が多い。同時にやったら金額がかさむからだ。結局凹んだままでいつまでも（誰かがぶつけてくれるまで）待っているのが現状だ。ここでこのまま待ちの状態を続けていたら仕事は段々減ってきてしまいには全部なくなってしまうのではないだろうか、、、などと危惧されるようになった。かといって今までは何十年も待つだけの状態を続けてきたのだが、この不景気の打開策としていまさら何をしよう？と考えればひらめいたのが車の保険を売ったら事故した時はきっとお客は来てくれるに違いないと思った。そしてその事を、よく来る帝国損害保険会社に言ったらすぐにやってきて代理店契約を結んでくれた。そこで古くからおなじみのお客さんに声をかけたら「どうせ事故ったらお宅で直してもらうのだし保険料が同じならいいよぉ」と言って皆さん快諾してくれた。現在ではそれを家内がやっていて（有限会社なんだけど殆んどトーチャン、カーチャン企業ですから）保険会社から貰う代理店手数料が月に数十万円を超えるころになると女は欲なもので見込み客をリストアップして次々にアプローチしはじめた。いや恐ろしいものである。この前までヒロミ自動車の経理事務など一日のうち１０分もあれば十分こなしていたのに今では帝国保険会社の仕事で一日中机に座っている家内である。そして益々やる気を出して励んでいる。工場に来る人には皆声をかけているからよほど都合の悪い人はともかく保険なんかどこで入っても同じだと思っている人はたくさんいるので一声かけると気軽に入ってくれる。今頃では毎月十人位の新規のお客さんを取ってくるようになってしまった。しかしやはり板金塗装の仕事は少ない。代理店をしている帝国損害保険会社からの仕事は月に一台か二台位のものだ。最初の見込みと全然ちがう。事故に遭って入庫したお客にばかり保険を勧めているのに皆、二回目の事故は遠慮して差し控えているのだろうか。それとも免疫ができて上手になったのだろうか。帝国保険会社の担当が笑いながら言う。「ヒロミさんとこは客層がいいからなかなか事故されないですねぇ」とか言っている。保険をかけておけば事故ったときにすぐにもってきてくれるからと思って必死で保険をすすめたのに、、、、かくして保険はあまり当てにならなくなった。次は何をやろう。色々考えていたら今頃は保険に入っているお客が「ヒロミさんとこは車検はやってないの？安くやってよ」と言うお客が増えた。そうだ車検をやったらついでに凹みを直すお客が増えるかもしれない。そうだそうだ車検をやろう。車検をやるのに必要な工具は大体有るし、ないものは買えばいいだろうと思って陸運事務所に聞いてみたら我社に不足しているものは排気ガス測定装置と油水分離装置だけだと言う。早速これを購入して車検を始める事になった。さぁこれからどう言う展開があるかなぁ、、、、、楽しみだなぁ。お客さんがガンガン来すぎて処理できなくなったらどうしよう。断るのや長く待たせるのは性に合ってないしなぁ。毎日夜中まで残業するのは嫌だなぁ。まぁそれでも以前のように仕事がすくないよりはましだからがんばろう。しかしそれにしても車検一台やった工賃が軽四輪のフェンダーの塗装代と同じ位とは思わなかったなぁ。車検は忙しいばかりであまり儲からないものなのだなぁ。だから今頃非常に忙しくなった。でも売上は相変わらず上がっていない。最近になってなぜ儲からないのかやっとわかってきた。ヒロミ自動車は他の工場と比べて工賃が異常に安いのであった。だからいくらがんばっても、利益が出なかったのだ。お客さんは安いから喜んでたくさん来てくれるのに忙しいばかりで全然儲からない。以前は利益が出ないのは暇だからとばかり思っていたらそうではなかった。車検をやってみてやっと分かった。どうしたものだろう。とりあえず消費税だけでも今後は貰う事にしよう。お客が嫌がることはしたくないが、かといって工賃をすこしだけでも値上げしてもらわないと会社が潰れちゃってもこまるしなぁ、、、しかし工賃の値上げはやっぱりいやだなぁ。でもいつまでも赤字経営というのもどうかと思うしィ。とりあえず一般のお客さんの自腹の時に安くする分、金持ちの保険会社から貰う時はきちんと定価を貰う事にしよう。世のため、人のためだから、保険会社さん悪く思わんといてね。次へ続くコラム一覧に戻る