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詐欺師 長年懇意にしているお客さんで若年輩の女性から相談が来た。聞いてみれば彼女の息子がなにか、やらかしたらしいのだがこのことについて息子は殆んど喋らないので良くわからないらしい。 そこで女親では話しにくいこともあるかもしれないと言う事で私が引っ張り出されたわけだが「親にも話せないことは他人の私などには話してくれないでしょうよ」とか言いながらまず本人に会ってみてくれということになり、隣町の彼のアパートに言ってみる事になった。 彼女は息子のアパートに私を案内して一緒に中に入ったものの、怒ったような顔でムス!として口も利かない息子を見て「私、ちょっと御茶でも買ってきますから、、、、お願いします」といって部屋を出て行ってしまった。 少しの間、沈黙があったが「お母さんが心配してわたしのところへ相談にきたんだ。あんまり心配をかけるなよ、、、」「おじさんには関係ないから心配しなくていいよ」「そうもいかないよ、話をしてくれるまでは帰れない。 いったい何があったというんだい」三郎君はしばらく下を向いて考えていたがやがて、押入れを指差して泣きそうな顔になった。孤軍奮闘していたが私たちが来た事でついに気が緩んだのだろう。 私が押入れを開けてみるとそこには真新しい布団がたたんで置いてあった。「この布団がどうかしたのかい?」「おじさん、それ、65万円するんだ」「なに!65万円?これが?」 「高級羊毛布団なんだ」「羊毛布団?65万円?うーーーんだまされたんじゃないか?」「だまされたんじゃないんだ。布団はそろそろ新しいのが欲しいと思っていたからさぁ」「といって65万円はいくらなんでもたかいんじゃないかね?」 「買ってから二日たってそう思い始めたんだよ。しかしもう使っているから返品も出来ないし、どうしようかと迷っていたんだ」「どうせ訪問販売だろうけど売買契約書をもらってないのかい?」「あるんだけど、、、」彼は気まずそうに茶封筒に入ったそれをそろそろと出してきた。 二枚の契約書があって一枚は布団売買契約書だった。他の一枚は布団の代金をローンにしたそのクレジット契約書だった。私はそれを見て又驚いた。商品は確かに65万円の購入金額だが金利がすごい。 毎月9600円で60回の支払い、ボーナスは一月と9月の8万づつであった。そして金利総額がなんと73万円になっていた。私は商品と金利の合計で138万円と書いてあるのを見てあきれて物が言えなくなった。 商品より金利の方が高いのである。しばらく契約書を見ていたが「次郎君、布団というのはだねぇ、上下セットで普通3万円くらいのものなんだ。それからするとこの布団はいくら上等といっても20倍以上も高い。 おまけにこのローン会社は金利が高すぎる。私は傍らにあった計算機でかんたんな計算をしてみたが、どうも超低金利の現在では話にならない位の高金利になっているみたいだ。 「三郎君説教するつもりはないが今、銀行に貯金をするといくら利子がつくか知っているか?」「知らない」「一年で0.04パーセントだから百万円を定期預金で預けて400円だ。 そのうち税金を20パーセント引かれるから380円しか利子はつかないのだぞ」「、、、、、、」「それからするとこのローン会社はすごい。かなりの暴力金融だ。布団とローンの解約に行こうじゃないかね」 「解約はできないと思うよ。古い布団を下取りとして持って帰られたから仕方なくこの布団をもう3日使用しているし、布類はクーリングオフが出来ないって契約書のここに書いてあるでしょ? それに最初女の人がやってきて「一生の三分の一も一緒にいる布団のことをもう少し考えてあげた方がいいと思うのょ。そこで最高の眠りが得られる布団を見せてあげたいんだけどアパートに持っていくにはいつの日が良い?」 ということで4日前を指定したんだ。だからアパートに来いって言ったのは俺なんだ。だから益々クーリングオフが出来ないとおもうよ」「出来るか出来ないかはやってみないとわからないと思うな。警察と消費生活センターに行くけどついて来るかい?」 「うん」「じゃあ善は急げと言うからすぐに行こう」というわけで我々三人は近くの警察署に言った。担当警官は契約書などをコピーをとりながら「警察は民事には介入できませんがクーリングオフがうまくいかなかったらまた来てください」といった。そして生活センターの地図を渡してくれた。 我々はそれを頼りに生活センターを訪ねた。警官に言われたとうりに二枚のはがきを持って、、、、。生活センターの人はとても親切な人だった。一通り話を聞いた後、「布団は使っていてもまだ8日以内ですからクーリングオフができます。心配しないで下さい。 確かに布団は布で出来ていますがこの場合の布というのは裁断した布と言う事なので布団とは違います。布団はいくら汚していても大丈夫ですから返品しましょう。こういう商売というのは百人に売って一人か二人買ってくれれば計算が合うようになっているのです。 こわがることはないですからキャンセルのハガキに自分の住所氏名を書いて出しましょう。布団も取りに来させましょう。それとも会いたくないなら宅配で着払で送りつけましょうか?」などと丁寧に教えてくれて一件は落着した。 心配なのは契約時に来たチンピラ風の若い男がまた怒鳴り込んでくることや三郎君の住所氏名などのデータを他の詐欺師たちに横流しして三郎君の所へいろんな詐欺師たちがひっきりなしにやってくることだったがセンターの人は「それはまず考えられないでしょう」と強く打ち消してくれたので三人は安心した。 今回は布団屋とローン屋がグルになって若い者を食いものにしようとした悪質なケースだったが早く発見できたのでクーリングオフが出来、事なきを得た。大きな街には人間が多いので良い人も多いが悪い奴も多いんだなぁと変なとこで感心した。 私達は意気揚揚と隣町からひきあげてきた。あれから2週間たつが悪徳業者たちはまだ何も接触してこないと三郎君は電話で言っていた。私はクーリングオフが完成した事を知り一人で喜んでいた。 |
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