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99 美しすぎるお客さん 鈴木さんは格別美しい女性だ。しかし残念だが結婚していて子供も中学生が二人いる。しかしとてもそうは見えない。髪が長く色が白いので10歳は若く見える。 この人は旦那や子供の匂いを全く感じさせないところがある。その鈴木さんが凹んだ車をもってきた。「鈴木さんこの車の修理代は30万かかりますよ」「え―――」と言ったまま絶句してしまった。 鈴木さんはそれからなにか分けの分からないことを一人ぶつぶつと20分もしゃべる。交差点で直前を横切られたのをよけそこねて縁石にのりあげてしまったらしい。 鈴木さんの保険では相手が縁石では保険がでない。早い話が安くしてくれと言っているのだ。「何でよけたんですか、相手にちょっとでも接触していれば全部、保険が出たのに、、、」 「そんなこといったって急に前を横切るんですもの、とっても無理よ。それに相手にぶつかったらケガするじゃないのよぉ」「それもそうですねぇせっかくの美人がフランケンシュタインみたいになったら大変だ。 相手の住所氏名がわかっていれば私が3割くらい払ってくれるよう交渉してみるんですがねぇ」「だめよそのまま行っちゃったもの」「じゃナンバーも分からない?ナンバーでも分かれば陸運事務所で相手の車の車検証を取り寄せて相手を調べられるんですがねぇ」 「ナンバーねぇ、、、赤い車だったんだけどねぇ」分かっているのはそれだけで要するに保険は出ず、全額自腹になるということだけだった。仕方がないので「鈴木さん、修理方法を変えたら20万位にはなりますよ」「20万ねぇ」 「普通のお客さんは20万に消費税がついて21万になるのです。その他にお得意さんは、一割引の18万9千円になります。鈴木さん、貴女はとてもうつくしいから消費税はサービスするとして18万はかかりますよ」 「もっともっとずーと安くしてくれない?」「もっともっと安くですかぁ、、、あーそうそう鈴木さん、、タダというのがあるにはありますがこれはあまりお勧めできません」「タダ?」「そうです、ただです」 「それっていいじゃない、それにしてよ」「いやこれには条件が付いているんです」「条件?なによそれは」「それはそのぉ、私の子供を生んでもらうことです」「え―――?うそぉ――こどもぉ?、、、、、、 私がもっと若かったら生んであげてもいいんだけどねぇ、、、ちょっとねぇ、、、でもかわりにキスしてあげようか?修理が終わるまで毎日キスしにきてあげる、、、、、てのはどう?」 「だめだめ!女房がどこで見ているか分からないからだめ!」「じょうだんよ、冗談。アハハハ―――でも安くしてよ頼むからね!」と言って観念したのかスタスタと帰っていった。 今頃の若いオバサンはすこし心が乾いているみたいだ。逆にこちらが怖いくらい。しかし鈴木さんぐらいの美しい女性をみるとすこしちょっかいを掛けると言うか冗談の一つも言ってみたくなる。人生のデザートという思いがした。 お客がたのしくなればそれでいいし、事故による感情の落ち込みを少しでもやわらげればもっといいし、その結果信頼につながればそれはそれで上等だ。 男と女はと言うより店員とお客は―――このお客様はずーと来て欲しいなとおもっているとあいてのほうもすごい感知能力ですぐにそれを察知する。そして受け答えしてくる。人生はたのしい。 しかし松竹の映画に「男はつらいよ」というのがあるが、主人公の寅さんはいつも相手の女性に利用されっぱなしだ。寅さんがいくら努力しても表面上でしか報われることはない。 肝心な時にはいつも彼女の心はここにはない。しかしいつかきっと寅さんの心を真正面からうけとめる大和魂をもつ女性にめぐり合ってハッピーエンドにおわる、、、に相違ないと思って見つづけていたのだが、甘いかなあ、でも、もう寅さんはいないんだっけ?、、、、、、、、、。
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