コラム

72 うわ!タイヤがない

友達を大勢乗せないといけない用事ができた。自分がいつも乗っている車では五人しか乗れないし、五人乗ったら非情に狭くて長距離では少しきついものがある。仕方がないので大きいワンボックスを持っている友人から車を借りた。

友達は会場で皆酒を飲んでしまったので帰りは電車で帰ることになり私一人になってしまった。したがって一人では退屈なので高速道路を使う事にした。新緑がさわやかで空気まで新鮮な気がしていた。

さっきからハンドルがなんだかフラフラすることを除いては爽快であった。そして突然にハプニングは起きた。いきなり左の前のほうからゴー――と言う激しい音と共に車高が下がりハンドルが左にすごい取られる。

一瞬何がなんだか分らなくて車を降りて周囲を見渡して事故ではないことを確認してから自分の車を見てみるとなんと左の前のタイヤがない。これはいったいどうしたことか、何故タイヤがないんだ?と思いながら前輪のところにしゃがんでよく観察してみるとなんとタイヤのナットが外れてなくなっているではないか。

車は壁すれすれのところでとまっていたから追突の危険は余りないがここは高速道路の上だ。何がおきるか分らないので少し慌てた。走行中にタイヤが外れてどこかに飛んでいくなんて、この車いったいどうなっているのか、とか思いながらとりあえず外れてどこかに行ったタイヤをさがさないといけない。

前後を良く見ると遥か前方に何か黒いものがある。きっとあれがタイヤだろうと思って取りに行こうとするがここは少しカーブになっていて見通しが悪い。誰かが間違って追突でもしたら偉い事になる。

もっと見通しのよい場所に車を移動しようとしてエンジンをかけたがびくとも動かない。それはそうである。タイヤがないのだから動くわけがない。当たり前の事だ。仕方がないからスペアタイヤを取り出して見ようとしたら、トランクの中に三角の緊急表示板があるのがみえた。

箱から取り出して百メートル後方に設置した。そしてスペアタイヤの取り付けに着手したのだがタイヤははまったがナットがない。さて、どうしたものかと考えた。ナットが外れてなくなったからタイヤが外れて飛んでいったのだからナットはあるわけがない。

そこで又ナットを捜して緊急表示板のあたりまで下がってきたがとうとう見つからなかった。どうにも成らないので、後ろのタイヤからナットを一つずつ借りる事にした。五個締めてあるので一つくらいとっても別に問題はないだろうなどと思いながら前後左右のタイヤから一つずつ、計3個のナットが用意出来た。

そしてそれを締め付けようとするがねじの部分がひどく荒れていて締まりそうもない。タイヤのナットが緩んだままで高速を走ったからネジがいかれてしまっていた。ナットを力いっぱい締めたが半分くらいしかしまらない。

タイヤは未だガタガタである。どうにも成らないのでそのままゆっくり三百メートル移動して見通しの良くなった所で再び定置した。そして警察に電話した。警官は「事故がおきないようにしてから安全な所に避難していて下さい」警官はこう言ったがここは隠れる所が全然無く立ち木もガードレールも何にもない所だった。

安全とは思わなかったが仕方ないので自分の車の影に隠れてレッカー車を待つ事にした。待つ事15分でパトカーは来た。レッカー車は1時間以上かかった。自分の車がレッカー移動されてしまうと警官は「では行きましょうか」と言って私を高速警備隊の事務所に連れて行った。

そこで私は4時間もみっちりしぼられた。タクシーで家に着いたのは暗くなってからだった。車を借りた友人に今日のことを報告するとたいそうな平身低頭であった。明日朝ワンボックスを取りに行かないといけないと思うと気が重かった。

ましてそれを修理して返さないといけないなどと思うとうんざりした。面白くないので酒を飲んだら昔のことを思い出した。昔は上記のような事が良くあった。私自身もこの目でタイヤが外れるところを目撃している(しかし自分がまさか経験するとは思わなかったが)。

そうそうこんな事もあった。交差点で左に曲がったら、どうした弾みか運転席のドアがいきなりパカッと開いて私は車外に放り出された。もちろん車はそのまま、まっすぐに走って角のタバコ屋に飛び込んで止まった。

あの頃はシートベルトは有るにはあったがベルトが堅くて装着感が悪いのと、強制的でなかったため誰も装着していなかった。だからカーブでドアが開くとそのまま放り出されたものだった。仕事中なのでヘルメットを被っていたのがさいわいしてたいした怪我もしなかった。

あの頃ヘルメットをかぶってうんてんする人が沢山いたが皆車から落ちた経験者だったのだろうか?又こんな事もあった。その頃駅前以外は道路の舗装状態は最悪であった。

そこを飛ばして走っているといきなりボンネットが開くのである.フロントガラスに張り付いたボンネットで前が全然見えないのである。急ブレーキを踏むとバタンと音がして激しくボンネットはしまり何をしても二度と開くことはなかった。

ボンネットはぐちゃぐちゃになるし、フロントガラスは粉々に割れるし、もう大変だった(その後スピードの出る車は全部後ろ開きになった)。

しかしあの頃の車は良く壊れたが可愛かった。(まるでやんちゃ坊主のようであった)もうあんな車は出てこないだろうなぁ、、、、、、、、

次へ続く


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