コラム

79  バクチ打ち

昔、徳山という町に住んでいた。競艇場のすぐそばに会社があったので昼休みの時間でも競艇をする好き者の先輩がいた。

競艇場は駐車場が広いから自転車で急いでいったら昼休みの時間だけで3レースする事ができた。時々先輩が勝負に勝ったらそのときはいつも小料理屋に連れて行ってくれていた。

勝ったときにはすごい鼻息で「ひろみ、お前もやってみろ」とよく進められた。しかし私は以前占い師から「あんたは博才が全く無い。普通の人よりだいぶ少ない。

だからやっても絶対勝てない、あんたは地道にこつこつとやる方が向いている。こつこつとやっていたらそのうちそこそこに恵まれるでしょう。」といわれた事があったのでパチンコや宝くじ等もおよそ博打と思われるものはやらなかった。

しかし先輩がここの所、非常に調子がいいのである。まだ月も半ばと言うのにもう競艇で50万も取ったと言っていた。給料が5万円位のときにである。毎晩のように行きつけの小料理屋に通ううち、そんなに儲かるなら僕もやってみようかなと思うようになってきた。

でも占い師から釘を刺されているのを思い出したので実際に舟券は買わないで予想だけでやって見た。半年間くらいの出走表のデータを取り寄せて分析を始めた。

当時は未だコンピューターがなかつたので骨の折れる大変な仕事であったがその選手選手の癖や勝率など膨大な情報が収集出来た。これらを元に予想を始めた。

36種類の舟券の中からまず2種類を選び出す。こうすると10レース中7レースが的中する。しかし的中するのは銀行レースと呼ばれるあまり儲からないレースばかりなのだ。

配当金を見て見ると突っ込んだお金と貰った配当金がほとんど同じくらいになってしまう。だから僕は損もしないけど全然儲からなかった。

しかし先輩は僕が朝、渡した2種類ずつの勝舟予想表をうまく選んで半分以上的中させているのだ。無駄な外れ券を買わない分確実に儲かる。一般に大穴と呼ばれるレースはなかなか当たらないのだが、それには最初から手をつけなかった。

だから先輩は確実に少しずつ儲けていた。ここで先輩には僕にはないと思われるかなりの博才があるのがよく分った。それから僕は先輩のために予想屋をしばらくやらされた。儲かったら呑みに連れて行ってもらっていたので共存共栄の関係になっていた。

それから20年たった。今、雑誌やテレビは毎日のように株価を映し出していた。お客さんの中にも株で2000万円儲けたとか、3000万円儲けたとかいう話が良く舞い込みだした。株と言うのは銀行や保険会社も買っている安全で有利な貯蓄であり博打的な要素は全く無いと信じていた。

実際今までは株の値上がりを示すチャートも右肩上がりで株価はガンガン上がっていた。もはや、まともに仕事をしているのは馬鹿だとか言われるようにまでなった来た。そんなときである。

知り合いの土建会社の社長が「株をやって見んさい馬鹿みたいに儲かる」というものだから真に受けて少しぐらいやってみようかなと思い出した。経済新聞を取り、株の専門雑誌を定期購読して株を研究した。

そして3年前インターネットで株の取引をするのが流行りだした。私も証券会社に出向いて話を聞く暇など無かったので当然の流れでインターネットトレーディングと言う方法を選んだ。

女房をだまして絶対儲かるから大丈夫だからとかいってかなりまとまった金額をもらってインターネットで株を買った。私はまだまだ株は上がると思っていた。儲かりそうな会社の株を選んで3種類の株を買った。

私が買った株はその後順調に上がるかと思われた。ところがである。突然ある日反転したかと思いきや、見る見る株は急降下を始めたのである。上がるときがあるんだから少しは下がるときもあるだろう。

そのうち又上りだすだろう、、、、、、とか思って放置した。これが間違いの元だった。株は見る見る30パーセントも減り、そうこうしているうちにとうとう買ったときの半分に価値が落ちてしまった。私はやっと気がついた。

私には博才が無いのに、何にトチ狂って株など始めてしまったのだろうと思った。今頃になってやっと気がついたのだ。株は完全に博打であった。

この頃になるとテレビで一流会社でさえ株の含み損が激しくて赤字決算を出したりしていたのを映していた。日本国自体が未曾有の不景気に突入していたのである。

激しいリストラ、下がり続ける商品の値段、とうとう給料までが10パーセントカットとか平気で言われだした。この頃になると中小企業ではボーナスが出ない会社が続出した。

お客さんの中でも株で500万損したとか3500万円下がって証券会社から更に保証金の上積みを求められている人とかの話が深刻な顔で囁かれていた。

この人たちはこれから先、いくら株が下がっても売る事は出来ない。元の値段に戻るまでずーと辛抱して待ち続けるしかないのである。売ってしまったら損が確定し、それの穴埋めが大変なのだ。

家を売ったりしないとあいた大穴は埋まらない。どつぼにはまっているのである。絶対に抜け出せない。だから売れない。いつまで続くか分らない泥沼経済を耐えていかないといけないのである。

銀行が保証金の上積み分を貸してくれる間は良いがとまったらアウトだ。人間欲をかいてはいけないってことか。私は女房に話して全株を売る事にした。

女房は「株なんて20年以上持っていないと儲からないわよ」といいながら「ばかねぇ、、、自分で自分の定期を一つ飛ばしてしまったよ、この人は“」といって半分諦め顔で情けなさそうな顔がたまらなかった。

チキショウメ、もう絶対バクチはしないぞ、、、、、、、、、、、、、、、、、、。

 次へ行く

コラム一覧に戻る


Copyright (C) 2001 : sanko jidousya co.,ltd All Rights Reserved.