88
集中豪雨 9月十七日は気象台によれば一日中曇りということだった。しかし朝の9時頃から晴れて、暑いくらいのよい天気になった。私はお客さんに誘われてルンルン気分でハマチ釣りに出かけていた。 その日、ハマチはどうやら休日のようで何処かに行ったのだろう、誰も一匹も釣っていなかった。いつまで待っても全然釣れないので仕方がないから針をかえたら小さい鯵でもつれるかと思い、始めたらこれが当たって23センチくらいの鯵がばんばん釣れだした。 これに気をよくして皆で鯵釣りに切り替えたがその頃からすごい横風が吹き出して釣りにならなくなったので帰ることにした。もう鯵は十分に釣れたからだ。自宅が近づくにつれて今度は雨が降り出した。それも段々激しくなる。 ラジオでは呉市に洪水による避難勧告が出たと言っていた。雨はドンドン酷くなりとうとうワイパーを動かしても前が見えない土砂降り状態になってきた。やっとの事で自宅に到着したが車から降りて家に入るまでの間にパンツまでずぶ濡れになってしまう状態だった。 道路に降った雨は普通は側溝に流れ込むはずだがこの日は側溝から水が湧き出て道路にどんどん逆流して溜まりだしていた。まもなく道路が水深25センチ位になって歩道と車道の区別が付かなくなってしまった。 その後も雨は断続的に激しく降り自宅前の道路がとうとう水没してしまった。それでも車は舟のような状態になりつつもゆっくりと徐行しながら走っていた。雨はがんがん降り続いている。その時だった、山川さんから電話が来たのは。 「車のエンジンが止まったのです、すぐ、助けに来てください!」「どうしたのです?」「道路に水たまりがあって深くなっているのです。そこに入ってしまったのです」「誰かに引き出してもらいなさいよ」「だめです、だれも僕の車に近寄ろうともしません」 「そんなに深いところなら私が助けに言っても私も、はまるじゃないですか、」「背の高いトラックなら大丈夫です。ドンドン水が来ていますから、とにかくはやくきてください!」山川さんはもう泣き出しそうな声で、早く早くと訴えていた。 「山川さん落ち着いてください、9時が海の干潮ですし、雨は小降りになってきましたから水はドンドン引いていきます。心配はいりません。すぐに助けに行きますから」「お願いします、お願いします、待っていますから」私はレッカー車で出動した。 しかし1キロも行かないうちに建設省の職員が交通止めをやっていた。この先の道路は水で通れないから迂回してくれと言っている。よく見れば車が3台くらい止まっていて、半分くらい水没しているではないか。 私は不安になりながらセンターラインの真上をゆっくり走った。道路の左は水深が深いのだ。3キロも行ったら又、バリケードをはって交通止めをしていた。山川さんの現場に到着するのに10キロもないのに1時間以上もかかってしまった。 走っている車は殆んどいない。山川さんの車はタイヤが半分くらい浸かっていた。「さっきまでタイヤが見えないくらい水がありました。」「ここへ来るまでに十二台くらい水につかって止まった車が道路に放置してありました。 3箇所も通行止めがあります、大変でした。」「すみませんこんな日に!早く引き上げてもって帰ってください」というのでレッカー車に積んで帰路についた。 次の朝、山川さんから「くるま、、、どうですか?」と心配そうな声で電話が来た。「エンジンの中に水が入っているようです、分解しないといけませんから20万円くらい掛かりますよ」 「僕のくるま、まだ新しいので保証があると思うんです、そのまま買ったとこへ持っていってくれませんか?」「山川さんこれは災害ですから新車保証は効きません。 車両保険が掛かっていましたからそれでなおります。心配はいりません。車は買ったとこへ持っていって上げましょう。」私は彼が車を買ったディーラーに連絡をとってから車を持ち込んだ。そして保険会社にたいして事故発生報告書を書いてFAXをした。 鑑定人がすぐにディーラーに車を見に行った。そして折り返し、私のとこへ電話で「かなり水がはいってます。OILが真っ白になっています。30万円くらいかかりそうです」と報告が来た。 まもなく山川さんの奥さんがやってきて「エンジンの中に入った水は全部ちゃんと出るんでしょうか?」と言う質問をした。「奥さん大丈夫、分解して洗浄しますから全部出ます。 「それから集中豪雨は台風と同様に扱われて保険の等級が下がりませんからご安心を」「まあ!本当ですか?嬉しい、、、」「よかったですね保険に入っていて」「ありがとうございました、おせわになりました」と今までの顔が嘘みたいに、嬉しそうにして帰っていった。 台風、洪水、高潮、津波、雹(ひょう)、竜巻などの自然災害は保険の等級ダウンはない。しかし地震によるものは保険はでない。 |
||
|