90 夜の蝶
妙さんはそのころ夜の蝶であった。天心爛漫を絵に書いたような人だった。だから彼女は勝男を追っかけて博多からやって来た。博多では大手百貨店に勤務していたそうだが、勝男に出会って人生が狂ったと言うか、オカシクなってしまった。
最初の頃は九州なまりがひどくて、またそれがお客さんにすかれてお店では、すぐにＮＯ2の立場を確保していた。ママがいなかったらきっとNO１になっていたと思われるがママはいつも着物を着ていて
（飲み屋に行くお客はどうも、美人でやさしい着物の女性にあこがれる傾向がある）いつも孔雀美人（あちこちのテーブルを蝶の乱舞のように優雅に接客する）をしていたから、妙さんが遠慮してか着物を着ることはめったになかった。
妙さんとは彼女が結婚するまで10年くらい付き合ったが着物姿を着たのを見た事は５回ぐらいしかなかったように思う「ひろみちゃん、誰も私を貰ってくれなかったらあんた私を貰ってや」とよく言われていた。
ママよりはずっと美人だったし色も白かったので、いろんなお客が「店を持たせてやる」とか、「わしの囲いものになれ」とか、「そろそろ足場を固めた方がいいが、全面的に協力したい」など、そんな誘いには事欠かなかったみたいだ。
しかし彼女がこっちに来た目的が、金でも地位でもなかったので皆、断っているみたいだった。妙さんの彼は競艇の選手をしている勝男だが妙さんとは内縁関係だった。ご存知のとうり競艇の選手は皆小柄な人が多い。
募集規則で身長、体重などが制限されている為だが、勝男はチビだがなかなかの男前だった。またA級の選手だったので非常に金回りがよく、おまけに口八丁だった。会社勤めと違って競艇は毎日は仕事がない。
だからいつでも遊び人スタイルで夜の街を遊びまわっていた。金離れがいいから結構モテテいた。九州の女性は大体、情が深い人が多いが（私の周辺の九州の女性は皆そうだ）、おまけに妙さんは、さそり座の女らしくとても一途なとこがあった。
私より年がひとつ多いのだが小柄だったからずっと若く見えた。だから店のお客さんには七歳位さばを読んでいた。私は妙さんと勝男には、かなり信頼されていて、（この信頼のお陰で私は最後まで妙さんとは結婚できなかった。）
その日も24時まで店にいた妙さんは「ひろみちゃん、あんた車でしょ？アパートまで送ってよ」といったがそのときの私はかなり飲んでいたが彼女は私がいくら飲んでも酔わないタイプであることもよく知っていた。
「ひろみちゃんは大丈夫だからいつでも遊びに来ていいとよ」と日頃からよく言われていた。彼女のアパート（一軒家）に勝男の留守中に遊びに行くことがよくあった。
（勝男はレースが始まったら10日は絶対帰ってこない）やる事は大体決まっていて酒をのんでのカラオケか花札カルタだった。不思議な部屋でカラオケの設備があるのにクーラーはなかった。妙さん自身が痩せていてクーラーは嫌いだと言っていた。
尤もアパートは錦川の土手に建つていたので夏でも、よい風がそよそよと吹いてきて割と気持ちよかった。しかし彼女も好きなホワイトホースを半分も飲むとやはり暑いのか、わたしが目の前にいると言うのにパンツとブラだけになって本気になって花札をやった。
そして私をちらちらと、上目遣いに挑発しては楽しんでいるようだった。下を向いたとき胸の中が何となく見えるのである。私も若かったし酔っていたので何回も妙さんの上に、馬乗りになりたい衝動を体を揺すったりして辛抱しながら、血走った目でも平気を装って花札をしていた。
そんな時、酔った勝男が帰ってきたりすると「なにをやっちょるんじゃおまえらは！」などと怒った。勝男と妙さんとは不倫の関係であったが私は仕事上勝男の本妻もよく知っていた。だから私に少し弱みがあったのかもしれない。
競艇の選手はレース開催の連絡があると三日ぐらい前に会場に、到着していないといけない。そしてレース終了まで外部の人と会うのを禁止されて共同タコ部屋生活を強いられる。今は携帯電話もとりあげられるそうだ。
不正を防ぐのが目的だそうだが、ボートの整備が済んだらすることがないので皆で花札をするのである。だから酒を飲むか花札のどちらかだった。勝男は米軍基地近くの外人バーへ私をよく連れて行った、
１０パーセントの飲食税（今の消費税みたいなもの）を払わない方法を教えてくれたのも勝男だった。
私には当時妙さん以外にこれと言った彼女はいなかったがしまいには妙さんは私にとって、空気みたいな存在になってしまっていた。
だから結婚できなかったのかもしれない。今にして思えばあの頃がわたしの黄金の日々だったのかもしれない。あのころは何もかも無茶苦茶だった、、、、、、、、、、、、、、、？
