コラム
 

89 夜の蝶U

妙さんが夜の蝶であることは90で言った。実際お店に出ている時はかなり化粧は濃くしていた。バッテン言葉もそのうち止めて美しい博多弁しか使わなくなった。

しかしアパートにいるときや買い物などをしているときは殆んど化粧はしていなかった。彼女はもともと色が白く童顔だったので、すっぴんも結構かわいかった。夜の蝶なのに時々子供みたいなことを言って困らせる事があった。ある日、

「用事が有るとよ、すぐ来てくれんかね」とTELがきたから何事だろうと思って車をぶっとばして行って見ると「今日は勝男は帰ってこないとよ、あの人は今、久留米やから」と言った。

「何でそれを早くいわなかったの?僕知っていたら来なかったのに、、、、、」「いいとよ、たまには。あの人だって今頃何しているかわかった者じゃないんやから」「でも、、、」「いいと、気にせんといて。来てくれって頼んだのは私なんやから。それより今夜は飲もぅ!私、キゲンいいとよ」

彼女はそういって、見た事もない上等そうなブランデーとグラスを二個持って来た。「どうなってもいいとよ、飲もぅ!」とまた言った。彼女はぴったり僕の横にくっついている。ブランデーグラスを持つ手が何回も妙さんの肩とこすれる。

二人で並んでコニャックを飲んでいたが僕はやっぱり、いくら妙さんと勝男が不倫の関係としても、勝男に済まないと思ったので「僕やっぱり帰る」「泊まったらいいとやない」「いや帰る」「ばかやねえ、、、」「ごめん、、、、、、、」

妙さんの心の中はよく分かっていた。(今日しかない!と血が騒いだ。据え膳食わぬは男の恥とかいうけど責任のもてない事もできない。)まして友人の勝男と妙さんを同時に失うことになるのは耐えられないと思ったのだ。

最悪のシナリオになった時、妙さんみたいな金の掛かる女は僕の給料ではどうにもならないとも考えた。ドアを出て行くとき「浜のかもめには二度と惚れない。かもめは北へかえってゆくよぉ」と歌う声が聞こえたような気がした。

相手が夜の蝶だろうがなんだろうが、男は本当に好きな女には手はだせない。愛のない人との遊びならいくらでもできるのに。

閉話休題、またある日、大竹市の小瀬川の上流に弥栄峡と言う所がある。外人が良くおとずれる、すばらしく水と景色のきれいなところだ。そこへある日、妙さんの店の従業員全員でキャンプに行った。

呼ばれた部外者は僕一人だった。どうやら男手が足りないから安全パイの僕に白羽の矢が立ったらしい。(安全と言ったってぼくはインポではないのだが)テントをたてたり、石でかまどを作ったり僕はよく働いた。

美人はいっぱいいるが何もしないので仕方がない。そのうちマネージャーが高いところからこれ見よがしに飛び込みを始めた。バーテンに続いて勇気のあるホステスたちが次々に飛び込む。

そのうち妙さんは一段と高い5メートルくらいの高さから飛び込む用意をした。それを皆がみていた。みんな足から飛び込んでいたのに、妙さんは九州の若戸大橋の近くで育ったせいで深いところや、高いところには慣れていた。だから頭から飛び込んだのだ。

水から浮いて来た妙さんを見て皆が大声で「妙ちゃーん」と言って自分の胸を叩いて見せた。僕もしっかり見ていたが妙さんのブラは、腹のあたりまでずりさがっていてオッパイが丸見えなのである。

彼女は水から上がってブラを直した。妙さんはおっぱいを男全員に見られた事で少し恥ずかしいらしかった。「ひろみちゃん、泳がんとね?」と彼女が聞いてきたが「二人だけならすぐに泳ぐんだけどね」と言った。彼女は僕と一緒にビーチパラソルの中に並んで座ってビールを飲み始めた。

「夜、焼肉が終わったら二人でどっかにいこうや」と妙さんが言うから「皆がいるからまずくない?」と聞いてみた。「気にしなくていいとよ、仕事じゃないんやから、それにみんな知っとるとよ」僕と妙さんは不思議な関係だった。今までも二人きりになるように仕組んだりするのはいつも妙さんだった。

妙さんは僕を夜中にどこかに誘ってもたぶんHはしないだろう。ぎりぎりで止めるのだ。だから僕は苦しい。どうも僕をもてあそんでいるにちがいない。苦しがっている僕を眺めてせせら笑いをうかべることがある。妙さんが僕からほしいのは愛されているという確認だけだ。

僕も後になって冷静になって考えると妙さんとは最後の一線は越えないほうがいいんじゃないかと思ったりした事もある.一度超えてしまうと恋はドンドン冷めていくのが男のサガだし,逆に燃え上がっていくのが女のサガというものだろうから。

夜の蝶は二重人格とまでは行かなくても二面性が必要なのは確かで、浮気や不倫などは慣れていて一々気にしていたらきりがない。まして浮気や不倫には殆んどの場合、愛はありそうでない。

だからお店でも売れっ娘になるほど浮気や不倫の三つ巴なんて事は日常茶飯事であり、上手な娘は奥さんに公認にさせて三つ巴をせず男をその気にさせる。旦那の時間さえ奥さんから貰ったら、もうしめたもの。旦那はまな板の鯉だ。

男と女が恋に落ちるのにきちんとした理由がいるだろうか?存在感以外には何も必要ない様な気がする。そこにはお金も年の差も、遠距離でも、どんな障害も関係ないと思ったりするのは私がまだ未成熟だからだろうか?妙さんの仕事は夜の蝶なのに僕に対してお金を求めた事はない。やっぱり九州女でさそり座でA型だからかなぁ、、、、、、、、、、、、、、、?  

次へ続く

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