コラム

   

 985 板金塗装の話

凹んだ車のボディの鉄板をハンマーなどでたたいて、元通り平らになおすのが板金。平らになったらハンマー痕などを消すためにパテという樹脂を塗っては削り、塗っては削り、塗っては削り、を何回もやってピカピカつるつるの真っ平らにしてから下塗り、中塗り、上塗り、仕上げと塗料をかけていくのが塗装。この二つをあわせて板金塗装屋という。

どの仕事でもそうだろうがこの仕事も一人前になるのに五年位はかかるのだが凹んだ車がみるみるうちに元にもどっていくのが見えるのとお客さんの喜ぶ顔をみたら苦労がいっぺんに報われるような気がして、たいてい5年くらいあっという間に過ぎていくものなのです。

只、給料が少し少ないのと納期があるのが毎日いらいらして仕事している理由です。何の仕事でもそうでしょうが職人気質と言うのはどうもあんまり金には縁が無いようで楽しく人生を送る事はできるのだけれど金持ちになるというのはとても無理のようです。まあお客さんに喜ばれればそれはそれで本望だからいいのですけれどね。

昔は流通が悪かったから凹んだドアを修理するのでも新品部品を注文しても在庫が有るのやらないのやらさっぱり分からず又、いつ品物が到着するのか返事もおぼつかない。だから修理が一ヶ月も二ヶ月もかかることがけっこう多かった。又お客さんも文句を言いながら待ってくれたものだった。しかし今のお客さんは長くは待たないし値段が高いのも嫌がる。だからあまり手間暇かけていられない。

早くきれいに安くを殆んどのお客さんが希望しているのだ。何日かかってもいい。いくらお金がかかってもいいといってくれるお客さんは一年に一人か二人ぐらいしかいない。当たり前のことなのだが、、、、しかし修理をやるほうとしては十分に気の済むまでばっちり直したいのが本心であるのだから金や時間がかかる。

殆んどのお客さんは時間の方は少し余計にかかっても割りとおおらかな気持ちで待っていてくれるが、修理代については非常に神経質になってくる。仕事の仕上がり以上に代金の事は気になるようだ。ドアが凹んだと仮定しよう。昔だったら新品部品がなかなか無いので四日も五日もかけて二人がかりで叩きなおしていたものだ。

山口県周南市にいる私の先輩などはそれはそれは上手で鏡のように仕上げていたものだ。その技術たるや魔法使いのレベルで若い頃の私はそのすばらしい技術に憧れていたものだ。しかし今はこの業界も技術を売るのが商売といいつつ時間を売る商売に変わって来ている。

昔は親方が凹んだ車を見て「うーむ、、修理代はだいたい十万円だ」と言ったらお客は「そうですかだいたい十万円ですか」と言って素直に十万円払ってくれたものだが今頃は違う。「この車の修理は15時間かかります一時間が6300円ですから消費税とで99225円かかります」とお客さんに説明する。そして値切るお客には「それでは15時間もかけないで10時間でやりましょう。

それなら安くなります」と言う。ここでお客さんが気をつけなくてはいけないことがある。安くなるのはいいことだし、早くなるのもいいことだ。しかし15時間かかるものを10時間でやるわけだから5時間減っている。

工程、使用材料などが変わらずに職人が遊んでいる時間だけがCUTされて15時間が10時間になったのならお店もお客さんも喜ぶ所だがそうではなく15工程を10工程に減してやるとか、乾くのに時間のかかる良質の高い塗料の使用はやめて早く乾く安い塗料にした、、、、なんてのは店の方はまあまあいいとしてもお客さんの方はどうだろう。

確かに5時間減ったのだから総金額はやすくなったのだが手間のかからない安い材料に替えられて早く済ませてしまう。これが本当に安くなったと言えるのだろうか。ちょっと違う様な気がするのだが、、、板金塗装は本当は漆塗りと同じで本格的にやれば時間がとてもかかるものなのです。でも今はお客さんの方がそれを希望しない。

「安く、早く、綺麗になおせ、しかし何年か経って剥げたり変色してはいけない」と皆さんがおっしゃる。我々はそれを塗料会社に言う。すると塗料メーカーまですぐ伝わって半年くらいでその対策商品がでてくる。しかし「今までよりもっと早く乾く良い塗料を作ったからさあ使ってください!」

とメーカーは言ってくるのだが昔よりは段々良くなったとは言っても経年変化しない保証はないのだ。むしろ絶対にいつかは経年変化して剥げてきたりすると思うのだが、、、、

そのときでもやっぱり私はにこにこしていないといけないのかな?。

 

次へ続く

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