コラム

 

   雪 景色

寒い日だった。前夜からふりだした雪は朝方まで降っていたが会社に行く頃には道路にはもうなくなっていたので車で行くことにした。

非常に寒いので女の子はいつもより少し遅れて家を出たが国道は車がべたべたに混んでいた。仕方がないのでどうかとは思ったが裏道を通っていく事にした。国道を外れて林道に廻ると車は殆んどいない。

まだ雪が地面に残っている所が多い。女の子はかたくハンドルを握ってフロントガラスに穴があくほど大きな目をして前を良く見て走っていた。しかし雪道は初めてなので「怖いけど綺麗よねぇ」

などと若いくせに独り言を言いながら運転していた。少し行くと下り坂があった。下り坂の途中にカーブがあって山が影をしているところがある。そこは雪が完全に残っていて地面には三センチ以上もあった。

ゆっくり走っていたのだけれど下り坂でカーブ、おまけに道路が狭くなる所にもってきてガードレールが有った。女の子はガードレールがあるのは大分前から知っていたのだが、車が勝手に滑っていってそのガードレールにぶつかってしまった。

一生懸命ぶつけまいと努力したのだがとうとうよけきれず、ガードレールの方に車がすぅーと吸い込まれていってしまった。彼女が車からおりてみたらガードレールの端が車の前部に突き刺さっていた。

こうなったらこれ以上この車では行かれないと判断したので仕方なく誰かが来たら救助してもらおうと思って待っていたが、なかなか誰も来ないのでとうとうそのまま車を放置する事にして鍵をかけて徒歩で会社に向かって歩き出した。

その日は大変な遅刻だったが会社に行って仕事をした。昼過ぎの三時頃だったか「長島署、交通課の山本ですがあなたの車が三高山の林道においてありますねぇ。事故が起きているのですぐ現場に来てくれませんか」

と言う電話が来たのですぐに会社の車で送ってもらい現場に行ってみたら驚いた事に彼女の車の後ろに三台も追突してとまっている。関係者が皆そろっていた。彼女は警官に朝の事を報告した。

どうせこの雪道ではレッカー車を呼んでもすぐには来てはくれないだろうからこの状態のまま放置して会社に歩いていった事を素直に言った。そこへ後続の車がつぎつぎと追突してきたのだ。

朝彼女がここを去る時には前部は凹んでいたが後部は全然無傷だった。それが今では大きくグチャグチャになっている。彼女は泣きだしそうな顔になりながら「どうしよう、私がここに車を放置したばっかりに前も後ろもグチャグチャになってしまった。

三台を巻き込む大事故になってしまってどうしたらいいのだろう」彼女の気持ちは深刻だった。前の方を見てみたが朝見た時よりもっと激しくガードレールが食い込んでいる。きっと後ろから押されたからだろう。

エンジンからなにやら赤い液体が流れ出ている。「この様子ではエンジンは壊れているかもしれない。きっと動かないだろう」そう思ったからレッカーを呼んでもらおうと警官に声をかけたら「車を持って帰るのは良いが後ろの人と住所氏名などを交換してからにするように、、、」ということであった。

「私がこんな所に車を置いておいたのがいけなかったのですから事故の原因を作ったのは私です。だから皆さんの車の修理代は私の保険で弁償します。」といったら警官は「そうじゃあないでしょう。

あなたはぶつけられたのだから反対に弁償してもらう方ですよ。しかし前の方は自分の保険で見てもらわないとだめでしょうねぇ」「あーそうですか、そうなるんですか、じゃ私は悪くないんですねぇ」

「こんな危険な所に車を放置しておいたのだから全然悪くない事はないがあなたの車も凹んでいる事だし、さいわい怪我人がいないようだからいいけど今度からは気をつけてくださいよ」といって立ち去った。

彼女はレッカー車を呼んで行きつけのヒロミ自動車に車を持っていくように指示し、一緒にレッカー車に乗せてもらって同行した。自分の車の様子を聞く為である。ヒロミ社長は温かいコーヒーを持ってきてから見積書の話などしてきた。

「修理代は前側が二十万円、後ろが五十万円かかります」「えー!では合計で七十万円もかかるんですか」「そうです、でもこれ全額、後ろの人の保険から出ますからご心配なく」「いえ、でも私、後ろをぶつけられる前に一人で前をぶつけていたんです。

だから前は私の保険で直してください」「いやいいのです。あなたがぶつかったのはほんのちょっとでしょう?だから後ろの人の保険で全部払ってもらいます」といってヒロミ社長は「まぁ私に任せて安心していてください」といって代車のキーを渡してくれた。

彼女は良くわからなかった。前部は確かに自分がぶつけた。だから前部の修理代は自分が払うべきだと思ったがヒロミ社長は「払わなくてもいい」と言っていた。偏屈な社長だから何回も聞いていたら怒られるかもしれないから聞けないし、

まぁ払わなくてもいいというんだからまぁいいか、しかし、あとから保険詐欺だぁとか言ってこないだろうか?心配だなぁ。明日になったらもう一度ヒロミ自動車に行って修理完成予定日を聞きついでになぜ前部がタダで直るのかそれとなく聞いてみよう。

保険の等級が下がるから保険は使わないに越した事はないと思いながら翌日又ヒロミ社長に聞いてみた。すると「よっぽど自分で払いたいらしいなぁー、じゃぁ払いますか?」「いや払いたいんじゃなくて後から怒られたらいやだから聞いているんです」

「だから大丈夫と言っているから大丈夫です。その代わり保険会社が電話してきたら言ってください。私がガードレールにぶつけたのは最徐行をしていたのでほんのちょっとです。今のようにはなっていませんでしたとね、わかりましたか?」

「はいそれはそうです私がぶつけたときよりずっと重症になっています。それに後ろは凹んでいなかった」「そう言うことなのですから分かりましたか?ならこれ以上何も言うことはない」「よろしくおねがいします」

なんとなく良くわからなくて心配だったが蛇の道は蛇というから頭を下げて帰ってきた

 次へ続く

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